Skip to content

Philosophy

aito edited this page Aug 6, 2026 · 2 revisions

思想 — なぜ散文が主で、トークンが従なのか

DESIGN.md の設計判断は、本家の PHILOSOPHY.md に4本の柱として書かれています。ここではその要点と、そこから何が導かれるかを扱います。

→ 全体像は Home

:::message 引用について: 本家の PHILOSOPHY.md は英語で書かれています。このページの日本語の引用は筆者による訳です。原文は本家リポジトリを参照してください。 :::


前提: 1つの文

生成されたデザインの品質は、値の精度よりも、意図がどれだけ明確に記述されているかで決まる。

#1A1C1E と書いても、モデルはそれが「なぜ黒ではないのか」を知りません。「純黒ではない、グラファイト寄りの温かいインク」と書いて初めて、その色を罫線や図版のストロークにどう展開すべきかを判断できます。

トークンは値を固定し、散文は判断の仕方を伝えます。後者がないと、書いていない場面すべてでモデルが独自に判断します。そして書いていない場面は、いつでも大半です。


柱1: 散文が主、トークンが従

PHILOSOPHY.md の模範例は、機械可読な部分が名前1行だけで、残りは全部プロースです。

---
name: Technical Handout
---

## Overview

古い伝統ある大学の、大学院レベルの計算機科学の講義ハンドアウト。
読者は大学院生と研究エンジニアで、セミナー冒頭で配られた紙を読んでいる。

このハンドアウトは簡素で、情報密度が高く、第一印象を良くすることに
まるで関心がない。読者は自分がなぜそこにいるかを知っており、
ハンドアウトの仕事は誘惑することではなく、働くことである。

これで DESIGN.md として成立します。 色も書体も余白も1つも指定されていませんが、この記述から導かれる UI は、ほぼ一意に定まります。


柱2: 形容詞ではなく、具体的な参照

「1970年代の、古い伝統ある大学の大学院講義ハンドアウト」は完結した世界を喚起する。一色のインク、たっぷりの余白、読みやすいサイズのセリフ、装飾の不在。その一文が、十数個の数値より多くの有用な情報を運ぶ。値の背後にある理由を運ぶからだ。

「モダン、クリーン、信頼感、プレミアム」は何も喚起しない。モデルはそれらの語が指す領域の中心に何かを作り、結果は典型的に凡庸になる。

形容詞は領域を描き、具体的な参照は点を描く。

良い参照の条件

「モデルが知っていて、かつ視覚的な特徴が際立つもの」です。

効く 効きにくい
1970年代の大学講義ハンドアウト レトロな感じ
駅の発車標 インフォメーショナル
医療機器の操作パネル プロフェッショナル
美術館の図録 高級感がある
同人誌即売会のカタログ 親しみやすい

コツは、「業界」ではなく「具体的な物体・場面」を指すことです。

「金融系っぽく」は業界で、領域を指します。「Bloomberg ターミナル」は物体で、点を指します。


柱3: ネガティブ制約はタダで付いてくる

ここが実務上いちばん効く性質です。

十分に具体的な参照は、その制約を自動的に運ぶ。モデルは講義ハンドアウトが何であるかを知っており、それが何でないかも知っている。グローもグラデーションも使わない。列挙する必要がない。犬と名指せば、犬が鳴かないことも伝わる。

禁止リストの長さは、失敗の指標

続けてこう書かれています。

長くとりとめのない Don't リストは、記述が曖昧すぎた兆候であることが多い。

これは運用上のシグナルとして使えます。「あれもこれも禁止したい」と感じたら、まず Overview に戻って参照を具体化する。 禁止を足すより早く解決することが多い。

そのうえで、「強い参照 + 意図的な Do/Don't リスト」の組み合わせが最良とされています。参照から導けない、そのプロダクト固有の判断だけを Don't に書く、という切り分けです。

良い Don't には理由か代替がある

原典の例より:

  • Don't タイトルページにヒーロー要素を置かない。本物のハンドアウトの1ページ目は「コンテンツの1ページ目」であって、雑誌の表紙ではない。
  • Don't Bold を使わない。どこにも。
  • Do 控えめなサイズ差を信頼する。セクションタイトルは本文の約1.9倍であって、5倍ではない。
  • Do ページに余白が残ることを許す。3分の2で終わるページは正しく、埋め足りないのではない。

「Bold を使わない」だけでは、強調が必要な場面でモデルが困ります。「控えめなサイズ差を信頼する」という代替がセットで書かれているから、判断できる。

禁止だけを書くと、その穴を別の方法で埋められます。 埋め方まで書いてはじめて制約になります。


柱4: フォーマットは仕様ではなくユーザーによって育つ

標準化されているのは、あらゆるデザインシステムに共通する最小限だけです。色・タイポグラフィ・余白・角丸・コンポーネント。

モーション、アイコノグラフィ、エレベーション、文字ケース、行長は、意図的に開けてあります。

あるチームのモーショントークンは CSS のイージング曲線。別のチームのそれはバッファブロック単位の音声時定数。正しい形は各システム固有であり、フォーマットはすでにそれを定義できる。

独自のカテゴリを足しても、仕様変更は必要ありません。

リンタはこれらの値を受け入れ、エージェントは散文を読む。トークン自体が指示ではなくコンテキストだから、仕様変更は必要なかった。

この「開けてある」性質が実際に使われている証拠は、実物から見えること にあります。仕様に無いセクションが、実物の過半数に定着しています。


この思想の限界

正直に書いておきます。

散文の質は機械で検証できません。 検証ツールは値の整合性(壊れた参照、コントラスト比、未使用トークン)を見ますが、散文は読みません。つまりこの形式が最も重要だと主張している部分を、この形式のツールは一切評価しません。

矛盾というより、構造的な非対称です。散文の質を自動判定できるなら、それはもうデザインができるということなので。

実務上の意味は1つです。「検証を通った DESIGN.md」は、良さについて何も保証していません。 品質の担保は、参照を具体的にしておくこと、そして人間が出力を見ることに残ります。


→ 実物から見えること — 実在する74件を測ったら、公式サンプルの方が例外だった → Home